仙台の福祉業界で9年間にわたり精神保健福祉の現場に携わってきた及川渉さん。現在は就労継続支援B型事業所「ホプラス」で、障害のある方々の就職をサポートしています。最新のVR技術を活用した革新的な支援プログラムで注目を集める及川さんに、これまでの歩みと仙台での取り組みについてお話を伺いました。
プロフィール
及川渉(おいかわ わたる)
精神保健福祉士・サービス管理責任者
大学で心理学を専攻後、県内の精神科病院で9年間勤務。現在は就労継続支援B型事業所「ホプラス」にて、障害のある方々の就労支援に従事。VRを活用した新しい支援手法の開発・実践に取り組んでいる。
福祉の道への歩み ~実習での出会いが人生を変えた~
――福祉の世界に入ったきっかけを教えてください。
大学では心理学、特に行動を科学的に分析する分野を学んでいました。4年次の精神保健福祉士実習で、県内の精神科病院にお世話になったのですが、そこで指導してくださった方の働きぶりや仕事に対する姿勢、熱量に深く感銘を受けたんです。
「実習を指導してくださった方の働きぶりというか、仕事に対する姿勢だったり熱量っていうところに感銘を受けて、私も精神保健福祉士として医療機関で仕事をしたいなと思いました」
その経験が決定打となり、卒業後は精神科医療の現場へ。県内の戦時中から続く歴史ある精神科病院で、通院・入院患者さんやそのご家族の相談支援、グループホーム(共同生活援助:障害のある方が地域で共同生活を送るための住居サービス)の運営など、幅広い業務に携わってきました。長期入院されている方が地域生活を送るための準備段階として、共同生活を通じて一人暮らしの準備をお手伝いする―そんな橋渡し的な役割も担っていました。
就労支援への転身 ~より実践的な支援を求めて~
――なぜ就労支援の分野に移られたのですか?
長く医療・福祉の現場にいて感じたのは、実際の「仕事」について考えるとき、医療や福祉の経験しかないスタッフでは、企業や実際の仕事に対するイメージや知識、実践経験が不足しているということでした。より実践的な仕事に結びつく就労支援が必要だと考えていた時に、現在の事業所の代表である森本さんと出会い、一緒に施設を立ち上げることになったんです。
ホプラスでの支援 ~一人ひとりに寄り添う丁寧なサポート~
――初めて見学に来られる方にはどのように対応されていますか?
初めての場所、初めての福祉サービス利用ということで、皆さん非常に緊張されています。その緊張を少しでもほぐせるような話し方、堅苦しくなりすぎない説明を心がけています。
コミュニケーションが苦手な方には、まず1対1でお話しすることから始めます。スタッフとだけでも気持ちを伝えられるようになったら、次に他の利用者さんとの関わりの機会を設けて、少しずつ慣れていってもらうというステップを踏んでいます。
温かな事業所の雰囲気
利用者さん同士の関係も素晴らしいものがあります。最初は知らない方同士で直接お話しすることは少ないのですが、講座やレクリエーションを通じて共通の趣味を見つけると、休憩時間にはアニメやスポーツの話で盛り上がっています。「好きなチームが勝った、負けた」といった日常の会話が自然と生まれる、メリハリのある温かな雰囲気の中で、皆さん楽しく作業に取り組まれています。
革新的なVR技術の導入 ~新時代のソーシャルスキルトレーニング~
――VRを使った支援について教えてください。
従来のSST(ソーシャルスキルトレーニング:社会生活に必要なスキルを身につける訓練)はグループで行うことが多く、人前で話すことや他の人に見られることが苦手な方には参加が難しい面がありました。VRなら一人でも実施でき、よりリアルな感覚を得ながらトレーニングができます。
「VRですと、一人でも実施できる…よりこうリアルな感じを得ながらこうトレーニングができる。」
例えば、面接の練習、電話対応、コンビニでの買い物など、実際の就労や日常生活に直結する場面を仮想現実で体験できるんです。グループでの練習に抵抗がある方も、VRなら気軽に取り組めると好評いただいています。
ホプラスの魅力 ~一人ひとりに向き合う丁寧な支援~
――ホプラスの最大の魅力は何でしょうか?
「スタッフの丁寧な関わりだと思います。お一人お一人に必ず担当のスタッフがついていて、通所されたら必ず20分ほどかけて体調確認や今日の作業計画を立てる。そうした丁寧なお話を毎回していくところが一番の魅力だと思います」
スタッフと利用者さんという関係はもちろんありますが、何より「人と人」です。親しき中にも礼儀あり―そんな気持ちを大切に、失礼のないよう、でも温かみのある関係づくりを心がけています。
未来への展望 ~仙台から全国へ、新しい就労支援のモデルを~
――今後の抱負をお聞かせください。
現在、全国の就労継続支援B型事業所(障害のある方が自分のペースで作業し、工賃を得られる福祉サービス)のうち、パソコンを使った事務作業ができる事業所は全体のわずか7%しかありません。しかし、現代の就職にはパソコンスキルが必須です。
「パソコン関係のスキルを身につけたい、B型でスキルを身につけて就職していきたいという方に応えられるよう、今のホプラスでやっている取り組みを全国に広げていきたいと思っています」
仙台で培った支援のノウハウとVR技術を組み合わせた新しいモデルを、必要としている全国各地の方々にお届けしたい。そんな大きな夢を抱いています。
見学を迷われている方へのメッセージ
――最後に、見学を迷われている方にメッセージをお願いします。
最初の一歩はとても怖く、不安が強いと思います。でも、「VRってどんなものか触ってみたい」「パソコンでの仕事に就きたいからスキルを身につけたい」―そんな小さなきっかけでも構いません。
「どういう事業所なのか見ていただくだけで、何か感じる部分があると思います。その一歩踏み出すことを大事にしていただきたいと思います」
編集後記
及川さんのお話から感じたのは、技術の進歩と人の温かさを両立させた支援への強い想いでした。仙台の地で培った経験と最新のVR技術を融合させ、一人ひとりに寄り添う丁寧な支援を実践する姿は、まさに「仙台で輝く人」そのもの。その取り組みが全国に広がる日も、そう遠くないかもしれません。
※多機能型事業所ホプラスでは、随時見学を受け付けています。VRを使った支援に興味のある方、就労に向けてスキルアップを図りたい方は、お気軽にお問い合わせください。
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